副業の現場では、特定の品に貼られた伝票を回収する必要があります。
その伝票をまとめる際、自前で用意した大きなクリップを使い、
使わない時は伝票の保管箱に入れておくのですが───
「またクリップがなくなってるけど」
「え?」
───大抵は、一つ年上の上長が紛失するのです。
「毎回毎回どこに置いて来んの、かれこれ5個目よ、買ってるの僕よ」
「えー、これに入ってなかった? トラックの中かな」
こうして訊ねるのも何度目かです。
事務所に云えば貰えますが、もう買ってしまった物ですし、
そもそも失くさなければ補充の必要もないし、そうそう壊れたりしない。
「あのね、云われて育ったでしょ? 『開けたら閉める』」
「ぐっフフフフフ」
「『出したら片付ける』、どうしてお母さんの云うことが聞けないの」
「ぐふっ、お・おれ独りでに生まれて来たから、お母さんとか居ないんだよ」
「ウソつけぇ! 単為生殖か!!」
これくらいのやり取りは日常茶飯事。
他愛のない会話で単為生殖という言葉を使ったのは初めてかも。
その後、現場の強風で伝票の一枚が吹き飛んだらしく、
トラックの下に落ちているのを回収しています。
こうならないためのクリップでもある。
「あったー? ん~これじゃイカンよなぁ」
「もう撮影とかで代用できないの、これ」
伝票回収は、私が現場に入る前から続く習慣です。
10枚や20枚ならいざ知らず、しばしば100枚とか200枚を超えます。
何段にも積まれた重量物なら、すべて引っ繰り返して回収するのです。
これのせいで無駄に体力を消耗するし、ほかの現場よりも作業が遅れるし、
どうかすると残業になって、それでも仕方なく3年も続けているのに───
「う~ん……やめよっか? 回収すんの」
───ここに来て衝撃の発言。
それで構わないなら面倒の数々は何だったのか。
「や ら な く て い い な ら 二 度 と や ん な い よ ?」
「いや、ははは、おれが代わるってことだけど」
「でも基本的には回収が必要なんでしょ」
「うん、まぁ、そう」
「いいこと教えようか」
「何?」
「クリップ失くすな」
「あ……はい」
どうせまた失くすと思う。
- 2021/05/11(火) 22:38:14|
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