(今回は長話)
十日ばかり前、知り合いから「いい話だから報せたかった」と電話がありました。
それでいて私を気に入ってくださる70歳を過ぎた人生の先輩たる方です。
話と云うのは、親族が所有する農地を借りられるというもの。
大体の場所は知っていたので母と下見に行くと───
「ここしかないと思う」
「ほかは借り手が居るみたいだし……でも大変よぉ、これは」
───草ぼうぼうで、数年は放置していたであろう荒れ地でしたが、
その後に本人と待ち合わせをして紹介されたのは別の用地でした。
「あっちだと思って」
「俺があんなの勧めるかいな」
「ですよね、そんなわけないとは思いつつも」
きちんと手入れをされていたので、既に借り手が居ると思い込んだのです。
「お袋さんにも云ったが、まず最初に知らせようと思ってな」
「恐縮です。 魅力的だ……これ絶対に面白い」
「やっぱり、あんたなら俺が勧める理由が分かるよな」
現在の我が家は、農協の菜園で4ヶ所の用地を借りています。
今回の紹介は、菜園の面積と比して3ヶ所分くらいに相当する面積。
借り賃としても3ヶ所分より安く、決して悪い話ではありません。
何より、こなれた土がいい。
我が家の用地は、過去には(おそらく半世紀ほど前まで)家が建っており、
いまだ鉢や瓦といった陶器の破片、大小の石がゴロゴロ発掘されます。
これに鍬(くわ)やシャベルを弾かれること数知れず。
今更ながら「野菜を育てるための"まともな用地"」とは何たるか、
その魅力をもって思い知らされるにあたり、飛びつきたい話でした。
案としては菜園の用地を1ヶ所だけ残して他は解約し、
今回の新たな用地を主要な畑として進めていくというもの。
しかし問題が2つあり、まず水場(用水路)が遠いこと。
今一つは、その用地一つで数えるため「部分的な解約」が出来ないことです。
前者は道路の向かいまで水を汲みに行く必要があり、母の安全が心配。
そして後者は、今後の母が体力低下などを理由に用地を縮小しづらくなる点。
菜園では何度か用地の返却もしており拡縮の融通が利きました。
"1ヶ所だけ残して"としたのは、そうした点を考慮してのことです。
じゃんじゃん水やりが必要な野菜は菜園で、そのほかは新たな用地で……。
その日は母と再び相談するとして保留になったものの、
本日になり思いがけず声を掛けられました。
「よぉ、どうだぁ、キャンセルか?」
「えっ! あー……うぅ……」
断るにしても断りづらい。
この人が、どんな気持ちで「最初に知らせよう」と考えたか。
さらに決して無理強いしなかったところが、より私を口籠らせます。
「実は、他に名乗りを上げた人がおってなー、親戚の駐車場の借主だ」
この一言に、少しホッとしてしまった自分を恥じました。
心配な点はあるものの、それは対処して解決できる程度ではあり、
一つ返事で借りてしまいたいほど魅力的な用地だったのですから。
「その、すみません、お返事できてなくて」
「いいんだ、いいんだ、分かる分かる、その菜園だけでも大変だわ」
「本当に、せっかくの紹介なのに」
「いいっていいって、無理はしちゃいかん、タイミングが悪かったわなー」
紹介してもらえただけでも、私には光栄なことでした。
それゆえ厚意に応えられないことが残念でなりません。
その体面というわけではないものの、今日は用地の半分くらいを耕作しました。
せめて断る理由の一つとなった現在の菜園を、みっともない姿にしたくない。
ここですら満足に回転させられない時がある。
今の我が家には、まだ瓦礫が残る菜園が分相応と心得ます。
- 2020/09/05(土) 17:26:00|
- 菜園
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