プリンター等の台として使っていた小さなOAデスクを運び出しました。
これは私が自営業となる前に勤めていた会社から貰ったもので、
かれこれ20年近くも役立ってくれています。
私は過去二十数年で殆ど模様替えをしていないため、
しばらく見ることがなかった部屋の壁を見るのは奇妙な感じです。
家具が一つずつ転居先へ行くたび部屋の様子が変わるのは、
さながら私の生活が巻き戻される様を見るかのようです。
(この"巻き戻す"という表現も死語になりつつありますね)
そうして寝床に入った後、不意に気分が沈みました。
あろうことか、部屋の状況に不安を覚えたのです。
この部屋を出て行くのが妙に怖い……なんとしたことか。
20歳で独り暮らしを始めた前後でさえ、こんな気分にはなってない。
否、なぜ20歳の私は不安にならなかったのか。
真っ先に思いついたのは「独り暮らしへの漠然とした憧れ」でしたが、
すぐに違うと分かり、「根拠のない自信」のせいだと思いました。
生まれ育った実家に少なからず不自由さを感じる人は、
その対岸にある、あやふやな自由の姿を実家の外に夢想しがちです。
自分で自分の舵を取る、自分が中心となる生活。
実態は、あらゆる些細な作業が全て自分に集中する生活。
家族が代行していた、ちょっとした用事の担当者が自分一人になる。
20歳の私は、そんな現実を知らぬまま寝泊りを始めていたはず。
しかして日々の雑用に振り回され、それを消化することにも慣れ、
いつからか、この部屋が体の一部になっていたようです。
真っ暗でもドアノブの位置が分かる。
後ろ手が虚空を漂うことなく戸を閉める。
よろけて体を支える手が、いつも同じ壁をつく。
あるはずの何かが所在を失うかのような、この数ヶ月。
実際に家具が減って行く中、とうとう私の心が「異常」を検知して、
これが正しい舵取りであるかを問うている?
「おやおや、ひねこびた独身男にしては繊細ではございませんか。
斯様に色気のない部屋が、ようやく若者を迎えられるかも知れないのに」
そんな声が、どこからか聞こえることにして片付けを進めるのでした。
- 2019/10/17(木) 00:00:00|
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